ケラとエス

夜想日記14/2003/8/23


『ケラ』知ってますか とよく聞かれる。現代美術のイベントの打ち上げでも、ペヨトルのファンのメールでも聞かれた。もちろん知っている。『ケラ』はゴスロリの雑誌。編集室の足下にバックナンバーがなぜか積んである。ゴスロリというファッションを愛好する人たちの雑誌だ。ゴスはゴシックの略。ロリはロリータの略。ゴシロリと約しそうだが、ゴスロリという。


『ケラ』は良く売れている。影響力もある。全国にケラショップが展開されていてゴスロリのブランドが販売にしのぎを削っている。はじめてゴスロリに気がついたのは、新宿の丸井館の側を歩いているときだった。黒でロリっぽい服を着たカップルがぞろぞろと歩いていた。コンサートでもあったのかなと思ったら、みんな丸井館に吸い込まれていった。あれっと思って入ると『ケラ』ショップがたくさんあって彼女たちは、その一軒でお茶会をしていた。もちろんその時は『ケラ』もゴスロリも知らなかった。


たぶん『ケラ』のことを聞かれるのは、ゴスロリ・
ファッションで埋まっている中に数ページ、天井桟敷や『血と薔薇』のような、サブカル(編集長曰く)の特集をするコーナーがあって、どうもそれが『夜想』の匂いがするかららしい。ボクが秘かに原稿を書いていると思っている人もいて驚いた。


『ケラ』は、創刊当時、副題にon the roadと付いていた。つまりケルアックの『路上』だ。ケルアックを短くして『ケラ』。路上の出会いから何かがはじまる。それがこの雑誌のコンセプト。ストリートからいま何かが起き始めているというのは良く分かる。『ケラ』が路上を取材し続けることで、いろいろなものが立ち上がった。その一つがゴスであり、ロリであった。


夜想復刊『ゴス』特集を編集しているときに、コミックを描く人が読む『Sエス』という雑誌の編集長が会いに来てくれた。夜想復刊を取り上げてくれるということだ。『Sエス』もまた良く売れている。全盛期の『夜想』も全然かなわない数だ。この雑誌も現場に立って若いクリエータたちの感覚を呼び覚ましている。


雑誌が文化の初動力、発信力を失ってしまってもう8〜9年になると感じていたが、相変わらず起動力をもっている雑誌は存在するのだ。復刊にあたって元気をもらった。『ケラ』と『Sエス』の編集長に会ったが、80年代に文化を引っ張ってきたこれまでのカリスマ編集長とは印象が異なる。徹底してマニアック、かつ地べたからの反応、情報を適確に把握している。常にストリートに立って、感覚を鋭くしているからだろう。良い雑誌ができるのは当然だ。ちょっとかなわないなと思った。感覚の桁が違うものな。


復刊夜想は初志貫徹、若いクリエーターの感覚を喚起する雑誌を再びめざす。あとは、ボクがどれだけ地べたに立てるかが勝負かな。『ケラ』と『Sエス』は、文化を作る役割を果たしつつ、なおかつ商業誌としても成立している。若いにもかかわらず二人の編集長はボクよりもずっと大人なのでびっくりした。復刊夜想も売れないと再び停止になる。頑張って売れる雑誌にしなくてはならないけど、もうちょっと大人になる必要があるんだろうな。でも急にやり方も変えられないから、少しずつだな。ボクはボクで子供でやっていこう。

8月19日、復刊夜想を下阪した。9月1日は店頭に出る。また何か新しいことがはじまる。

 


 

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