月蝕領崩壊
夜想ドール特集編集後記より
2004/09/27
 

今にして思うと、中井英夫は、筋金入りの幻視者であり黒衣の編集者として才能を見抜く力も持ち合わせていた幻想の最高位司祭であったのだ。

幻視者はこの世では、人外であり流謫者である。そのことを強く自覚していた。この地上にわたしたちの棲むところはないということを共犯者の符牒としていた。

地上の月蝕領が崩壊を孕んで成立していることは、そもそも自前の了解ごとではあるが、それにしてもここれほどまでの荒廃が訪れるとは思っても見なかった。

人形の特集中に種村季弘氏も身罷り、いよいよ月蝕領の住人はまばらになってしまった。住人が死すごとに月蝕領も色褪せ、手の中から実体を失ってさらさらと流れ落ちるほどの微かなものになっているのかもしれない。

月蝕領を再興するなどということは、夢物語にしか過ぎないが、意外に新世紀の同人たちがそれを可能にするかもしれない。夜想ドール特集は、その可能性に向けて30年遅れの一歩を踏み出す試みになるだろう。30年遅れ。実に頽廃の極みかもしれない。

 


 


 

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